−持続可能な農業農村の発展に向けて−
日本水土総合研究所は、農業農村整備事業に関する総合的な調査研究を通じて農業農村の振興に資することを目的とする法人です。農業農村整備事業は、農業の生産基盤や農村の生活環境の整備を主としていたものが、時代の変化や社会の要請に応じて農地の集積・集約や高収益作物の導入等といった役割が付加されて今日に至っています。
一方、これまでも進んできた農業者の減少・高齢化、農業水利施設等の老朽化、集落機能の低下等に加え、気候変動に伴う災害の頻発化・激甚化、国際紛争に伴う食料の生産・供給の不安定化、人口減少に伴う国内市場の縮小等の課題が顕在化しています。
このような今日的諸課題に対応するために本研究所が目指すべき方向を見定めることが重要と考えます。
まず、本研究所が取り組むべき課題を整理しておきたいと思います。
○ 共通の課題
地球温暖化や生物多様性といった自然環境についてはより持続可能性が求められるようになっています。また、世界の人口が増加するなかでの国内人口の減少や我が国の経済的地位の低下といった社会環境の変化を前提に置く必要があります。
一方、スマート農業や情報通信といった新たな技術の導入・実装が課題解決の手段として必要不可欠になっています。
○ 個別の課題
・ 農業生産について
自動走行農機の効率的な運用には農地の大区画化が、高収益作物の導入には農地の畑地化・汎用化が必要です。また、農業者の減少に対しては農地を集積・集約するとともにICT水管理等による省力化が不可欠です。さらに水田からの温室効果ガス(メタン)を抑制する間断かんがい等の取組が求められています。
・ 農業基盤について
気候変動に伴う降雨の量及び強度の変化に対応するための用排水の見直しや頻発化・激甚化する災害への防災・減災対策が求められています。また、農業水利施設等の老朽化に対してはこれまで進めてきた長寿命化に加えて再編、更新が本格化するものと考えます。さらに農業者が減少・高齢化する中での施設の維持管理の省力化やエネルギー価格が高騰する中での省エネ化に対する早急な対応が必要です。
・ 農村・社会について
我が国の農村における人口減少と高齢化が深刻化する中で、生活環境や共同活動等を持続可能とし集落機能を維持することが喫緊の課題となっています。
一方、地球規模の食料安定供給に寄与する国際協力は我が国の食料安全保障にとっても重要な課題です。また、アジアモンスーン地域における水田農業が持続可能で、かつ、多面的機能を有することを国際世論とすることの重要性が増しています。
これまで述べてきた課題に対応するために本研究所が目指すべき方向について体制と目標の二つの視点からまとめたいと思います。
○ 体制
本研究所の基本姿勢である「産学官民」の知見を結集して課題に取り組むことには変わりはありませんが、「民」の概念をより広いものとする必要があると考えます。民についてはこれまで主として土地改良区を想定してきました。しかし、農業農村の課題に取り組むに当たっては営農者や農村の居住者等の自然人はもとより農業法人、JA、土地改良区等の法人の役割が重要となっています。このため「民」の概念に「人(ひと)」を含めることが必要不可欠と考えます。
この「産学官民(ひと)」の連携の下、これまで蓄積してきた自然科学的アプローチに社会科学的アプローチをより強化して課題に対応していく体制で臨みたいと思います。
○ 目標
農業水利施設等の長寿命化や更新等に係るこれまで培ってきた技術はもとよりスマート農業や情報通信等の新たな技術を追求し、実装することが必要です。また、農地の集積・集約や農村の共同活動そして国際世論の形成等における人々の思考や行動等を把握・分析し、理解することが必要不可欠です。
このような技術の追求と実装及び人々の営みの探求を積み重ねることを通じて農業農村の持続可能な発展に貢献することを本研究所は目指して行きたいと考えています。
一般財団法人日本水土総合研究所
理事長 安部 伸治
令和6年6月